“If you defeat me, you will be free!!”
ジャック・セリアズ(David Bowie)がローレンス(Tom Conti)と一緒に脱獄しようと、ヨノイ大尉(坂本龍一)と剣で対峙した際に、ヨノイがジャックに投げかけた言葉。
結局、ジャックは持っていた剣を大地に刺し、「禍の神」としてこれからもヨノイと対峙するすることにした。
今回の件で戦場のメリークリスマスのこのセリフを思い出した。自分にとって彼は「禍の神」だったのか、それとも・・・?
eBayで、「カビなし、キズなし、写真に影響を与えるようなダメージなし、絞りやフォーカスは問題なく稼働」と書いてある古いレンズを買っても10回に1回くらいは、そうでもないレンズが届きます。
もちろん古いレンズという性質上、強い光にかざすと「うす曇り」みたいなもの(油分の揮発とか?)が確認できるものが多く、オーバーホールで解決できるレベルなら返品することは無いけれど、実際にMint(新品同様)や”No fungus””No moss”(カビなし)と書いてあったレンズの中には、おい、本当にチェックしたのかよ?というものがあり
こういったケースの場合、これらの写真を見せて「Mintじゃないから返品」とメールすると、送料相手持ちで返品に応じてくれます。
そんな中、”Lens glass is in excellent condition – free from scratch, fungus but may have haze as seen in photos. Blades are free of oil. No major dents or paint loss in the lens body. Focusing and aperture works as intended.(レンズにキズやカビばなく(もしかしたらちょっと曇りがあるかもしれないけれど)状態は素晴らしい。絞りの羽にオイルの付着なし。本体に目立った当たりや塗装剥がれなし。フォーカスと絞りの動きは思いのまま)”
と書いてある A Schacht Ulm 製のM-Travenar R 50mm f2.8(Exaktaマウント)をポチってみました。
M-travenarは、西ドイツで1966年に製造開始されたレンズなので、およそ50年前のレンズ!
コンパクトな部類に入る大きさや重さで、その名前のとおり持ち運び(travel)に便利かつ、等倍のマクロが撮影可能であることもさることながら、このレンズの特徴として、レンズ部とエクステンションチューブの2つの主要部品に分ける(取り外す)ことができます。
つまり、純正のM-travenarのレンズを取りはずし、他のExaktaマウントのレンズをこのエクステンションチューブにつけて、マクロ撮影ができるという、ちょっと変わりもののレンズです。
しかも、デザインがゼブラ柄。
こんな面白そうなレンズ、放っておくわけにはいかんでしょ!
ということで、9月末に現物が届いたので早速動作確認してみると、あれ?マクロは申し分ないんだけど、逆に2m先以上のものに焦点が合わないんだけど・・・・?どういうこと?
最初はこのタイプのレンズを使うのは初めてのことだから、使い方間違っているのか?と思ったけど、間違いなく2m先以上のものに焦点が合わないようです。
そこでもしや!と思って他のeBayなどに掲載されているM-travenarの写真と自分が買ったM-travenarを見比べてみたところ、、、
#1 今回買った M-travenar #2 他の人がebayで売っているM -travenar
(両方とも一番短い状態)
おお~っ、何この差。これだけリアレンズの奥行きに差があれば、2m以上で焦点合わないのも納得。
程なくして、なぜこのようなことになったか判明しました。
自分の買ったM-travenarのエクステンションチューブ(左)には、”Exakta-Camera-Company-Bronxville-N.Y.”と”tube A.Schacht made in Germany”の文字が書かれているけれど、
他のeBayが売っているすべてのM-travenarのエクステンションチューブ(右)には、”Macro-Tubes A.Shachat Ulm”と”Lens made in Germany”と書かれていて、違うエクステンションチューブだった、ということ。
そして、自分の買ったM-travenarのエクステンションチューブは、実は別のレンズ(Extenar 50mm)の純正エクステンションチューブだったこと。
そりゃ、M-travenarとExtenarではレンズとチューブの設計が違うだろうから、バックフォーカス(レンズ最後端からデジカメのセンサーまでの距離)が違うのは当たり前だ。
M-travenarの純正エクステンションチューブとExtenarの純正エクステンションチューブはよく似ているから、売り主はその間違いに気づかずに発送しちゃったんだろうな。(もしくはどちらのレンズにつけてもOKだと思ったか)
いずれにせよ、これらの写真を添付し、「あなたから買ったM-travenar、2m以上で焦点が合わないので、他のM-travenarと比較したところ、これこれうんぬん(上に書いてあること)が判りました。なので返品希望です」
と書いて返品のリクエストを送ってみました。
当然、売主から「あー、申し訳ない、送り返してください」か「M-travenarの純正チューブを送りなおすからExtenarのチューブを送ってくれ」になるのか、どちらかだ、と思っていたところ、
「これはあなたのマウントアダプターの品質に問題がありますね」と返信が。
何でそうなるの!?
いやいや、これだけバックフォーカスに差があるんだし、2mから先に焦点が合わないのだから、マウントアダプターの品質は関係ないっしょ。
「売主は、もしかしたら、2mってのは大げさと思っているのかもしれない」と思い、他のExaktaのレンズ(Westrocolor 50mm)と撮り比べをした写真を送って、
「他のExaktaのレンズで問題なく機能するのに、M-travenarは実際にこれが限界なのだから、マウントアダプターの品質とは関係なく、このチューブが問題なのですよ」と反論してみた。
そしたら、
「マクロはちゃんと撮れてますよね。なので、マウントアダプターの品質に問題があります。品質のいいマウントアダプターを買ってください」と。
えええ~っ、エクステンションチューブを使ったマクロ撮影と、無限遠に焦点が合うかどうかは、アダプターの品質とは全く関係ないじゃん!!
「これはエクステンションチューブと言って、Exaktaのレンズをつければ、どれでもマクロ撮影が可能なんです。比較写真でご覧のとおり、このリアレンズの奥行きの差はマウントアダプターの品質でカバーできる範囲を超えています。マウントアダプターの品質を問題にする前に、売主として、このリアレンズの奥行きの差を説明してください!!」
とやり返したところ、
As for the distance, that’s not really a factor because the optical design is different with the one you are comparing to. As you already know, there are versions of this lens made in NY, USA and others made in Germany.
(このリアレンズの距離が本当の問題なのではありません。なぜならあなた比較しているレンズは光学設計が異なっているからです。あなたもわかっているように、あなたのレンズはNY製で他のはドイツ製です)
マジか!?
っちゅーか、A Schacht Ulmはすべてドイツ製、と思っていただけで、M-travenarにドイツ製とアメリカ製があるなんて知らなかったよ。。。それにしても、今回、いろいろ調べていく中で、アメリカ製のM-travenarなんて情報は一切見なかったのになぁ。
そこまで言われるとこちらも打つ手なしかなぁ?(要は、売主、買い手の間でキャンセルのリクエストまとまらない場合、ebayが介入してジャッジすることになるけれど、売主にアメリカ製だと言われても反論できるものが無いと自分の出した証拠の根拠が薄れる)と一瞬ひるんだけど、これまでチェックした他のM-travenarのシリアル番号を見て、ふと思いついたことを表にしてみました。
あー、やっぱりこのM-travenarがアメリカ製ってウソっぱちじゃん。いや、もしかしたら自分が知らないだけで、実はアメリカ製のM-travenarが存在しているのかもしれないけれど、
「eBayで売られている他のM-travenarのシリアル番号、271922と273914はドイツ製です。あなたが売ったシリアル番号、272735は生産ロットからするとアメリカ製と考えるのはどうやっても厳しいんですけど?」
と返してみた。
ところが、このシリアルナンバーのことには触れずに、
「私が売ったM-travenarはレンズもチューブもオリジナルだ。品質のいいマウントアダプターを買ってください。もし嫌なら“change my mind”(返品理由が買主のせい=送料は買主持ち)なら返品を受け付けます」
と今回はご丁寧に推奨するFotodioxというメーカーのマウントアダプタのリンクをご丁寧に案内してくれた。
しかもhttp://www.sony-alpha7.com/という個人が運営しているサイトで紹介しているアダプター。Amazonで探すと結構いい値段。
この売主が使っているのかな?
でもこのアダプターを使うとなんであのバックフォーカスの差をカバーできるなんて不思議なんですけど。。。(相手はα7RIIを持っているって言っていたし)
自分的にはこれを買っても焦点が合わないことを確信していたので、
「もし、このアダプターを買ってM-travenarにつけても、同様の現象だった場合、私の意見(送料売主持ちでのキャンセル)に同意してくれますか?」
と送ったら「Yes」と。なるほど。
でもどうせ焦点が合うわけないし、合わなかった場合、このアダプタの購入費用の話が出てくるわけで、
「もし、自分の意見が証明された場合、このアダプタの費用は補償してくれますか?それともM-travenarの純正のチューブを調達してきて、焦点があった場合、私の意見(送料売主持ちでのキャンセル)に同意してくれますか?」
と質問を変えて投げてみたところ、
「それは払うつもりはない。そもそもあなたの言うチューブが合うかどうかは別問題だ」と。
ん?あなたわかってんの?それとも自分の英語が下手すぎるのか???
というより、これまでのやり取りから、「もしかすると彼は本質的に、このM-travenarのことは全く理解していないのかも。だからこちらが理論的に説明してもアダプターのせいばかりにして反論しなかったんだ。アダプターのせいにするのは、相性問題として無限遠が出る/出ないということを知っているだけなのでは?」と感じてきた。
そこで、
「あなたの推奨するアダプタでもNGということと、M-travenarの純正のチューブで焦点が合うということは本質的には同じ(要は今手元にあるチューブとM-travenarのレンズの組み合わせではフォーカスが合わない)こと言ってるつもりなんですけど、どうして拒否するの?」と聞いてみたところ、
「M-travenarにダメージを与えるかもしれないから」だと。
やれやれ、ようやく理解したよ。
彼は、M-travenarのレンズがチューブから簡単に外せる(交換できる)ってこと知らなかったみたいです。だから外すこと=改造と思ってこんな発言になるんだろうし、レンズとチューブが外れない=両方Originalということ=焦点が合うと思っているだけなんだ。。。。。このレンズの仕組みとか設計が意味することなんて何も知らないんだ。。。
キャンセルの意見が分かれてeBayが仲介することになっても、ここまでのメールから十分自分の意見が正しいことを立証できそなので、「じゃあ、eBayに判断をゆだねる日まで待ちましょう」となったのですが、結局ぎりぎりの日になって、彼の方から「not as described(書いてあることと違う)=売主のミス」で返品を受けます、との連絡がありました。理解した?心変わり?
まあ、彼は転売屋なので、レンズの外観チェックはしたのだろう。もしかしたら、マクロで撮れることも。
だけど無限遠はでるかどうかまではチェックしなかったんだろうな。
でも「not as describedでのキャンセルを受ける代わりに50ドル安い返金で構わない?」とかわけのわからないことを言ってくるあたりは、今だに何が問題でどっちに責任があるのか理解できて無いのかも。
それにしても送料(厳密には、往復分約50ドル)を相手に支払わせるためにどれだけ労力を費やしたんだろう。
理論的な追及 VS のらりくらり反論の国会討論のようなメールを往復20通程度、資料作成など含めたら20時間くらいか。
しかもオールドレンズのプロを相手にしていたと思っていたのに、こんな落ちが待っているとは思いもよらなかったよ。。。
まあ、今回の経験で得られたことといえば、
理論的な長文の英語を書くいい訓練になったこと。
M-travenarとExtenarのエクステンションチューブの違いに詳しくなったこと。
ebayは技術的に信頼できそうな売主から買うこと。
くらいか。
10月16日になって、無事にM-travenarが返品され、PayPal経由で購入代金+送料が入金されました。
返送料は返金されてないかったので、催促のメールを入れてみると、「返送料は別に送金したよ。入ってなかったらまたメールして」と言われたので、Paypalを直接確認してみると、「未決済」で自分のアカウントに入っているのを確認。
「未決済」ってなんだろう?
とPaypalに問い合わせてみると、現在Paypalで処理中で、20日ごろまでには銀行口座に入金されるとのこと。
なんだか知らないことがいっぱいです。
いずれにせよ、今回の返品手続きがすべて完了しました。
返金時、特に売主から何もメッセージは無かったけど、
返品後、フォーカスのチェックをしてみたのだろうか?
レンズがチューブから外れるってことに気がついただろうか?
誰かが間違ってM-travenarとExtenarを間違って組んだ可能性があるってことを理解できただろうか?
ジャックは明確な意図をもってヨノイの「禍の神」として対峙していたけど、自分が対峙していたのは、売主の「盲信」でした。
さて、結局今回手に入らなかったM-travenar、クリスマスごろまでに手を入れようかな?