トリウムレンズを測定器で確認してみました。(CANON編)
※測定に関する説明は「Radioactive Lenses」参照のこと。
CANONのレンズはしっかり写って当たり前的なイメージがあるので、買ってもあまり活躍してないのですが、CANONのレンズのうち、4本がトリウムレンズでした。メインはFDではなく、FL時代のようです。
FL 50mm F1.4 (I)は、トリウムレンズを使っているバージョンと非トリウムレンズのバージョンがあるようで、65千番台のFL 50mm F1.4 (I)は非トリウムレンズでした。
多少、黄変しています。
■測定結果■
測定器 | 係数率(CPM) | 線量当量率(μSv/h) | ||||
Front | Rear | Finder | Front | Rear | Finder | |
TGS-146B | 1,040 | 23,400 | 440 | |||
TCS-172 | 1.55 | 7.94 | 0.57 | |||
GMC-320+ | ― | 2,639 | ― | ― | 17.15 | ― |
Asahi PentaxのSuper-Takumar 50mm F1.4もそうだけど、主力の標準レンズはがっつりトリウムを混ぜ込んでるなー。屈折率の向上と色収差の低減はトリウム頼み、ってことか。
TGS-146B
フロントで1,040CPM。リアで23,400CPM。結構高め。
TCS-172
フロントで1.55μSv/h、リアで7.94μSv/h。
ファインダーは、それぞれ440CPM、0.57μSv/hでした。
【参考】GMC-320+
■夜景■
黄変しているレンズなのに、色的にはだいぶ健闘している感じです。光芒もきれいに出ています。Super-Takumar 50mm F1.4 と比べてもこっちの方がキリっとしている感じ。
FL 50mm F1.8 (I)は和製Biotarと言われるレンズだそうな。
Carl Zeiss Jena Biotar 58mm F2は、のちにCarl ZeissのPlanar、Carl Zeiss JenaのPancolar、そしてソ連ではHelios 44につながるレンズで、自分もExaktaマウントのBiotarを持っています。
黄変はほとんど見られません。紫外線(UV)照射によって除去したのか、もしかしたらそれほど影響を受けてないのかも。
このレンズはFDの互換マウントではなくFLマウントで、アダプター側のピンと干渉するため、アダプター側のピンを縦半分でヤスリで削って、FLでもFDでも取り付けられるようにしてあります。
■測定結果■
測定器 | 係数率(CPM) | 線量当量率(μSv/h) | ||||
Front | Rear | Finder | Front | Rear | Finder | |
TGS-146B | 208 | 12,800 | 140 | |||
TCS-172 | 0.26 | 1.48 | 0.15 | |||
GMC-320+ | ― | 818 | ― | ― | 5.32 | ― |
Asahi Pentaxの50mm F1.8 もF1.4 ほど使われてなかったけど、FL 50mm F1.8もそこそこトリウムが含まれているようです。トリウムの含有量がF1.4とF1.8 の差?違うか。
TGS-146B
フロントで200CPM。リアで12,800CPM。
TCS-172
フロントで0.26μSv/h、リアで1.48μSv/h。
ファインダーは、それぞれ140CPM、0.15μSv/hでした。
限りなくバックグラウンドに近いです。
【参考】GMC-320+
■夜景■
レンズがちょっとクモリ気味のせいなのか、絞ってもモヤっとしている感じ。また、F1.4 と比較すると、こっちの方が黄変の影響が少ないにも関わらず、空の色とか多少黄色っぽい感じがします。(黄変ではなく、レンズの状態のせい?)
まあ、オーバーホールするくらいであれば、良さげな個体を探して買った方が安上がりだけど、それすらしないかな?Biotar持ってるし。
表記がBiotarでなく、”B”、Carl Zeiss Jenaでなく”Jnea”で表記されているのは、西側と東側でツァイスの社名やブランド名の商標権で争っていた当時、Carl Zeiss Jenaの製品を西側諸国へ輸出する場合、社名やブランド名の使用が制限されていたからのようです。ちなみに、Tessarも”T”で表示されています。
FL 58mm F1.2 (I)は一眼レフ用のF1.2クラスのレンズとしては最初期のレンズで、1964年に発売開始。1966年にFL 58mm F1.2 (II)がリリースされました。
一眼レフ用の50mmF1.2を実現するのは技術的に難しかった時代、わずかに長焦点の 55~58mmであればとCANONの他、NikonやMinolta、KonicaやOlympusなどの大手メーカーから5Xmm F1.2をリリースしていますが、この5社の中ではNikonだけが1965年、トリウムを使用せずにNikkor-S Auto 55mm F1.2を製品化させているようです。
ニッコール千夜一夜物語に55mm F1.2の開発苦労話が掲載されています。
多少黄変しています。
ちなみに、キヤノンカメラミュージアムによると、FL 58mm F1.2 (I)とFL 58mm F1.2 (II)では、スペックに差はありませんが、(I)と(II)の違いはこれじゃなかろうか、と。
①コーティングの違い。
(II)の方が青、紫系のコーティングが行われています。
②リア側のマウントの形状の差
(II)が左、(I)が右側。(I)の方の段差の部分が高くピンが短いです。
この段差の高さの差は、絞り連動ピンを縦半分にヤスリで削ったマウントアダプターが使えるかどうかというところに影響し、(II)の方は段差が低い分、マウントアダプターの絞り連動ピンが機能しますが、(I)は段差の高さが邪魔してマウントアダプターを取り付けられません⇒レンズの絞りを使うためには、マウントアダプター側の絞り連動ピンを外したうえ、レンズ側のピンに詰め物をしなくてはならなくなります。
なので、今後も段差のあるFLレンズを買うときは、段差の高さに注意しないと。
■測定結果■
測定器 | 係数率(CPM) | 線量当量率(μSv/h) | ||||
Front | Rear | Finder | Front | Rear | Finder | |
TGS-146B | 774 | 3,530 | 357 | |||
TCS-172 | 1.05 | 5.02 | 0.56 | |||
GMC-320+ | ― | 896 | ― | ― | 5.82 | ― |
F1.2だからがっつりトリウムが使われていると思ったら、意外と控えめなのね。(一番線量が高いと思った)
TGS-146B
フロントで770CPM。リアで3,530CPM。
TCS-172
フロントで1.05μSv/h、リアで5.02μSv/h。
ファインダーは、それぞれ350CPM、0.56μSv/hでした。
【参考】GMC-320+
ちなみにFL 58mm F1.2 (I)の線量も900CPM程度でした。
■撮影■
空を見ると、あまり黄変の影響が無さそうな感じがするかな?いや、黄色か。
開放(f1.2)とF8くらいまで絞ってみたら、開放のにじみだけでなく、色も黄色からちゃんとした空の色(バラに合わせて+補正しているので、空はまだちょっと暗め)っぽくなっているのは、こういうレンズだから?
■夜景■
こちらもあまり黄変の影響を受けてないように見えます。流石F1.2という感じです。
なお、1968年にはFL55mm F1.2がリリースされましたが、55mmにはトリウムが含まれていません。
こちらのサイトによると、FL 58mmの後継であるFL 55mm F1.2の方が優等生みたいだけど、自分的にはFL 58mmで十分かな?
キヤノンカメラミュージアムによると、FD35mm F2は発売時期により5種類に分類されるようですが、
FD35mm F2 (I) 1971年(昭和46年)3月発売
FD35mm F2 (II) 発売年月不明
FD35mm F2 (III) 1973年(昭和48年)1月発売
FD35mm F2 S.S.C. (I) 1973年(昭和48年)3月発売
FD35mm F2 S.S.C. (II) 1971年(昭和46年)3月発売
トリウムが使われているのはどうやら(I)の銀枠のみのようです。
スゲー黄変しています。
ちなみに58mm F1.2は410gに対してこちらは420g。
感覚としてはあまり変わらないんだろうけど、35mmでF2だから軽そう、という先入観が余計に「重っ」って感じさせます。
なお、FD35mm F2 S.S.C. (I)には「本レンズの様に、前群を凹 レンズ系、後群を凸レンズ系で構成する逆望遠型の広角レンズでは、・・・」と説明されているため、多くの人がFD35mm F2 S.S.C. (I)ではそのようなレンズ構成になっていると思っているようですが、FD35mm F2 (I)でも前群が凹、後群が凸になっているように見えるのは気のせい?
■測定結果■
測定器 | 係数率(CPM) | 線量当量率(μSv/h) | ||||
Front | Rear | Finder | Front | Rear | Finder | |
TGS-146B | 737 | 1,620 | 258 | |||
TCS-172 | 1.14 | 2.37 | 0.36 | |||
GMC-320+ | ― | 490 | ― | ― | 3.19 | ― |
TGS-146B
フロントで730CPM。リアで1,620CPM。黄変が激しい割には思ったほど線量が高くないようです。
TCS-172
フロントで1.14μSv/h、リアで2.37μSv/h。
ファインダーは、それぞれ250CPM、0.36μSv/hでした。
【参考】GMC-320+
■撮影■
やっぱりレンズが黄色いだけあって空の色が気になるなー。
■夜景■
全体的に黄色くなっています。雰囲気あるけど。
なお、唯一の欠点は、通常のFDアダプタでは開放で無限遠が出ない(アンダーインフ)こと。F8絞ればまあ写るけど。
なので、メンテナンスに出して無限遠の調整をしてもらわなくてはならないけれど、唯一、Canon LENS MOUNT CONVERTER Bと安物L39-NEXのアダプタをかませることにより、開放でも無限遠が出るようになります。(つまり、通常のFD-NEXのアダプタよりフランジバックが短いってことか)
レンズ裏の絞りレバーを固定しなくてはならないなど、面倒この上ないけど。
ちなみに、海外でトリウムレンズを測定したWebサイトs58yによると、CANONのレンズの中でとりわけ線量が高そうなのは、 FD 55mm F1.2 S.S.C. Aspherical 。
気にはなるけど、、、FD55mm F1.2 S.S.C.(発売当時50,000円)は同じ値段かいくらか安い値段で買ったけど、FD 55mm F1.2 S.S.C. Aspherical (発売当時80,000円)に至っては軒並み50万円台!
FD55mm F1.2AL(発売当時145,000円)と間違えてない?(それでも高いけど)
S.S.C.とS.S.C. Aspherical で写りの質がどれだけ違うのかわからないけど、、、これは流石に手が出ないです。。。